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ニッケル水素(Ni-MH)充電池の放電器

2013年9月
ニッケル水素(Ni-MH)充電池は今や100円ショップで買えるほど普及しています。充電池の心配事の一つにメモリー効果があります。見かけ上の電池容量が少なくなる現象で、リフレッシュ(放電)すれば復活します。そこで今回、放電器を作りました。


Ni-MH充電池について
メモリー効果とリフレッシュ
充電池を継ぎ足し充電すると、利用時にその電圧付近で急に電池切れになったような振る舞いをします。これはメモリー効果という、充電池のよく知られた性質です。ニッケル・カドミウム(ニッカド)充電池ほど顕著ではありませんが、ニッケル水素(Ni-MH)充電池にもメモリー効果が起こります。
メモリー効果を起こした充電池を元通りに復活させるには、電池に負荷をかけて放電を続けさせます。市販の充電器にはリフレッシュ機能といった名前で放電機能を備えたものがあります。

終止電圧
充電池の利用は何ボルトに減るまで、という下限があります。この電圧を終止電圧(放電終止電圧)と呼びます。Ni-MH充電池の終止電圧は1.0Vが目安です。それを下回ると過放電の状態となり、性能の劣化につながります。
【参考】 ニッケル水素電池の5大特性(pdf) …「2.放電特性 ・放電終止電圧」を参照。

放電させる方法
充電池を放電させるには、豆電球やモーター、あるいはセメント抵抗を電池につないで放っておきます。ただしこの方法だと放電が止まらず、やがて過放電の状態となります。放電器を自作するなら、電池電圧が終止電圧を下回らないようにする工夫が必要です。

回路図と配線図
回路図

ダウンロード BatteryDischarger_v100.zip ATtiny13Aに書き込むhexファイルとCのソースファイル。

配線図

回路の説明
動作
放電対象とする充電池を回路の電源としても利用します。
電池にトランジスタ(Tr)をつなぎ、適度に大きな電流(ここでは1A)を引き出すことで負荷とします。放電完了の判定基準とする電圧=終止電圧(1.0V)を用意します。電池電圧が基準電圧に達したらトランジスタをオフにします。
※正確には電池からはコレクタ電流1Aの他、昇圧コンバータに(多くても)100mA程度流れます。放電完了時は電流はほとんど流れません。

トランジスタ
コレクタ電流を1A流します。確認点としてシャント抵抗(R2)を入れました。両端の電位差をテスターで測定します。
トランジスタ(Tr)は下記条件を満たせば、2SD1415Aでなくても構いません。
・コレクタ電流が1A流れるとき、「Vce + シャント抵抗の電圧降下」が終止電圧以下であること。
・ベース電流に対し、1Aのコレクタ電流が得られるほどの増幅率(hfe)であること。
・コレクタ損失の定格が(1.2V * 1A <=)2W以上であること。

LED
放電中/完了の目印にLEDを点灯させます。そのための電圧は、Vfが低い高輝度赤LEDでも1.8V必要です。電源とする充電池そのままでは足りません。よって、昇圧コンバータを利用します。

DC/DCコンバータ
昇圧コンバータにはHT7733Aを使用しています。入力電圧0.7Vから動作するので本システムに向いています。また、3.3Vを作り出すことで、ICを使った高度な回路を設計できるようになります。
配線図において、出力側のコンデンサは基板オモテ面に電解コンデンサ、ウラ面にチップ品のセラミックコンデンサを取り付けることを表しています。

マイコン
電圧監視とシステムの制御にAVRマイコン ATtiny13Aを使いました。A/Dコンバータが3chとI/O出力が2ピン取れ、本システムの要件にマッチします。ATtiny13AのVCCはA/Dコンバータの電源(アナログ電源)を兼ねています。回路図にはありませんが本番の組み立てではAVRの電源ラインに10uHのインダクタを入れました。パスコンと合わせてLCフィルタを構成します。VCCはDC/DCコンバータから供給されるので、安定化を強化しておく意味はあると思います。
配線図において、パスコンは基板ウラ面にチップ品のセラミックコンデンサを取り付けることを表しています。

ダイオード
電池残量(電圧)が異なる電池をセットしたとき、片方が他方を充電してしまうことを防ぐため、ダイオード(D1,D2)は必要です。電圧降下は小さい方がよいのでショットキバリアダイオードを使います。

放電完了時の状態
電池電圧が終止電圧に達すると負荷が切り離されます。その状態でも電池はHT7733A(とその先のATtiny13A)に電流を流します。微々たるものなので過放電を心配する必要はありません。※何せ過放電どころか電圧が自然回復するほどなので。
また、HT7733Aの動作には0.7V必要、その手前にSBDの電圧降下が0.3Vあるので、システムの動作には1.0V必要です。電池電圧が終止電圧1.0Vに達しているならシステムはギリギリで動作する/しないことになり、それ以上大きく電池電圧が下がることはありません。このことからも過放電を心配する必要はないと言えます。
※厳密には一旦動作開始したHT7733Aは、出力電流が数mAならば入力0.5Vまで下がっても動作するようだ。

ソフトの説明
電池電圧2本分と基準電圧を監視するためA/Dコンバータを3ch使用します。1chずつ切り替えて変換します。そのとき安定したA/D変換が実行されるよう工夫します。まず、チャンネル切り替え直後に電圧安定待ちのウェイトを入れます。次に、A/D変換の結果を1回読み捨て、2回目の変換結果を採用します。※念のためか気休めか。
1秒ごとに電圧を監視し、3回連続で電池電圧が基準電圧に達したと判定したときに、放電完了とします。
ノイズ対策として有効なスリープモードでの変換を実行しています。

完成/使い方
完成


使い方
放電対象のNi-MH充電池を1本または2本セットし、リセットボタンを押します。放電が開始されます。
・電池電圧がすでに終止電圧以下だった場合、LEDは点灯せず、その電池は放電完了となっています。
・終止電圧の設定値が低すぎるとLEDが点滅し、どちらの電池も放電処理されません(調整方法を参照)。

放電中、トランジスタは非常に熱くなります。手が触れないよう注意してください。
放電が完了した電池はLEDが消灯します。この状態で電池電圧はいくらか自然回復し、終止電圧以上になっています。ここで再度リセットボタンを押すと、また放電が開始されてしまいます。繰り返すと過放電になるので、放電が完了した状態ではリセットボタンを押してはいけません。速やかに電池ボックスから電池を抜いてください。
LEDが点灯している状態であれば、リセットボタンを押しても放電処理に影響はありません。

調整方法
基板には調整用のテストピンを立てておきます。ピンヘッダーやリード線の切れ端で構いません。それらにテスターをあて、電圧を確認しながら半固定抵抗(VR1,VR2 x2)を調整します。

準備として、半固定抵抗を3つとも左側へ回しておきます。
満充電の電池をセットし(1本でも可)、リセットボタンを押します。
手順1
終止電圧を調整します。回路図のVR1を回し、テストピン1番の電圧を1.0Vに合わせます。
ここで調整ミスにより約0.8V以下を設定すると、LEDが「パッパッ…パッパッ…」と点滅し、待機状態になります。設定値を上げるまで放電は開始されません。※過放電防止。

手順2
負荷電流を調整します。回路図のVR2を回し、テストピン2番の電圧を0.1Vに合わせます。
シャント抵抗(R2)は0.1Ωです。両端の電位差が0.1Vなら、ここに流れる電流は1Aです(オームの法則)。
この回路における電流の上限値は1.5Aとします。※主にトランジスタのコレクタ電流とコレクタ損失の定格によって決まる。

手順3
手順2と同様、もう一つのVR2を回し、テストピン3番を調整します。
電池1本でテストしているときは該当する電池ボックスに入れ替えてから調整します。

失敗作
実は最初に失敗作がありました。電池電圧と終止電圧(基準電圧)の比較に、まずコンパレータの使用を考えました。が、手元になかったのでOPアンプで代用して設計しました。これが失敗の元でした。

OPアンプは増幅器
OPアンプの出力はあくまで入力差を増幅したものであり、Hi/Lo 2値ではありません。比較値(Vin+)が基準値(Vin-)に近付き、2値がほとんど等しい(しかしわずかな差がある)ところでの出力は、OPアンプの電源電圧間の値となります(単電源・フルスイングならVCCとGNDの間)。比較値が基準値に達するまでHi(VCC)を維持し、達した瞬間にLo(GND)にスパッと切り替わる動作ではありません。※コンパレータならHiを維持し、Loにスパッと変化する。

「失敗作」ではOPアンプの出力でトランジスタを駆動します。上記説明の通り、放電完了の間際(電池電圧が終止電圧に達する直前付近)では、OPアンプの出力はGNDに近付く小さな値です。
→ベース電流が小さくなり、コレクタ電流も小さくなります。つまり電池の負荷が小さくなります。
→電池の負荷が小さいと放電の勢いも弱く、電池電圧が基準電圧に近付く速さが遅くなります。
→まるで「アキレスと亀」のように、いつまで経っても終止電圧に届かなくなります。
結局、この設計では「放電はほとんど完了するがキレの悪い放電器」となってしまいます。

放電完了時の処理
電池に負荷をかけると電圧は徐々に下がります。負荷を外すと電圧は少しだけ自然に回復します。例えば、懐中電灯やラジオの使用中に電池が切れたとき、スイッチ・オフにして少し時間を空けてスイッチ・オンにすると、また懐中電灯やラジオが使えるようになることがあります(すぐに切れるが)。その現象のことです。

ここで、OPアンプではなくコンパレータで上記の放電器を作ったとします。電池電圧が基準電圧に達したところで出力はHiからLoに変化します。電池は負荷を外されたことにより自然回復を始めます。
→電池電圧が上昇するとコンパレータの出力はまたHiとなります。
→電池には負荷がかかり、放電が再開されます。
→電池電圧が基準電圧に達したところで…以降、繰り返し。
つまり、一度電池電圧が基準電圧に達した後、電池は回復と放電を繰り返すことになり、いつまでも放電処理が終わりません。※自然回復できないほど電池容量が空っぽになれば止まる。しかしそれは過放電の状態。

マイコンを使う
以上の問題点を検討した結果、マイコンを使うことにしました。
・電池電圧が基準電圧に達するまで電池にほぼ一定の負荷をかけ続け、達したら負荷を外す。
・一度負荷を外したら、電池電圧が回復しても放電を再開しない。
という制御ができます。

OPアンプにLM358を使っています。単電源で3Vから動作します。ただしレール・トゥ・レールではなく、出力電圧は最大でも電源電圧より1.5V低くなります。
LEDを点灯させるため、出力に2Vは欲しいのでOPアンプの電源は5Vとしています。
OPアンプの出力電流は一般的に数mA〜十数mAしかないので、増幅率が大きいトランジスタ(hfe>1000)を選びました。
マイコンの場合、出力電流は数十mA取れるので、さほど増幅率を気にする必要はありません。※マイコン版で変更する必要もなかったので、そのまま使うことにした。
写真・右端は、OPアンプからATtiny13Aへ載せ替えテストをしている様子です。

部品について
部品の選択理由は記事中の「回路の説明」を読んでください。
回路図内にもコメントが書いてあります。参考にしてください。


Ni-MH充電池の放電器 部品一覧 (回路図はここをクリック
部品名 部品番号 個数 参考価格/備考
AVR(マイコン) U1 ATtiny13A 1 50円(秋月電子
積層セラミックコンデンサ C4 0.1uF [104] 1 10個100円/チップコンデンサでも可
タクトスイッチ SW -- 1 小型のプッシュスイッチなら何でも可
ショットキバリアダイオード D1,D2 1S3 2 10個200円(秋月電子)
半固定抵抗 VR1 100kΩ 1 50円
下記は昇圧コンバータ部
DC/DCコンバータ U2 HT7733A 1 4個200円(秋月電子)
ショットキバリアダイオード D3 1S3 1 10個200円(秋月電子)
コイル L 47uH 1 10個100円(秋月電子)
電解コンデンサ C1 100uF/10V 1 積層セラコン/チップコンでも可
電解コンデンサ C2 47uF/10V 1 100uFでも可
積層セラミックコンデンサ C3 0.1uF [104] 1 10個100円/チップコンデンサでも可
下記緑色の欄は2セット用意する(個数「x2」はそれを示している)
LED LED Vf=2.0V程度 1 x2 色は好みで
抵抗 R1 1kΩ [茶黒赤金] 1 x2 .
酸化金属被膜抵抗 R2 0.1Ω [茶黒銀金] 1 x2 1W以上
半固定抵抗 VR2 10kΩ 1 x2 .
トランジスタ Tr 2SD1415A 1 x2 1個60円(秋月電子)
電池ボックス -- 単三 1本用 1 x2 .


◆ ◆ ◆
放電器。単に負荷をかけて放電させるだけなら抵抗1個で済みます。
目的の電圧で負荷をカットする。その制御を組み込むと、とたんに複雑な回路になります。
トランジスタ、OPアンプ、コンパレータ、A/Dコンバータ。様々な部品を見直す機会となりました。


(C) 『昼夜逆転』工作室 [トップページへ戻る]
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